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「語るべき言葉などなく」(人なる十年後短編)

 そういえば以前にツイッターにのみ流していた、人なる十年後短編があったのでした。
 なぜ当時ブログに載せなかったのかと言えば、

・ななが乙女すぎる。
・誰と誰がくっついて将来どんな感じなのか、ネタバレ。
・ななが乙女すぎる。
・ななが乙女すぎる。

 というわけで自粛していたのでした。
 でも、もう二年かそこら経過しているので、いいかな……と再録。

 ネタバレについては、Moter,you are right. とほぼ同じです。
 乙女なのは……もうしかたがない。この時点でななは妻子もちなんですがこれですもの。

 それでもよいよ〜という方は、↓からどうぞ。
『語るべき言葉などなく』

 入り口はいつも開いている。無用心さを咎めたいところだが、ななにとっては正直なところ有難くもあった。合鍵は持っているが、古びてしまったこの家の扉は、どんなに気をつけたところで錠の開け閉めに大層な音を立てる。盗みを働くわけでもなし、家主に見つかってもいいのだが、使影として生きてきた長年の習性で、どうしても物音を嫌ってしまう。
 ななはいつものように音もなく廊下を進み、居間の中の気配を探る。ペシフィロは、中に居る。鼻歌とも鼻息とも取れないものが聞こえていた。ペシフィロが口ずさむそれは、いつも歌になりきれない。ちゃんとした形を取ろうとしたところで、あやふやに崩れてしまう。
 一通り、歌、のようなそうでないようなものが終わるのを待とうかとも考えたが、ななは中に入ることにした。静かに戸を開ける。ペシフィロの鼻歌のように、開いているのか、そうでないのか、あやふやなほど細くにだ。
 かろうじて目に見えるようになった景色を探る。ペシフィロは窓を拭いていた。どうやら本格的にやるらしい。腕まくりをして、足元にバケツを置き、何枚もの雑巾を駆使して、ピカピカに仕上げようとしている。小気味のよい腕の動きにあわせて、鼻歌もふんふん跳ねた。
 ななはペシフィロの様子を確認する。緑色だった髪が黒くなり、短く切り揃えるようにしてからは、首筋から顔色が見えるようになった。青ざめてもいない、紅潮もしていない、ちょうどいい肌色だ。体調が悪いようには見えない。
 窓からの光を受ける体つきも確認しておく。激務にでも見舞われたのか、時おり、驚くほどやせ細っていることがあるのだ。今日はそちらも問題ない、標準に近い肉付きだ。
 鼻歌はまだ続いている。途切れさせてしまうのは申し訳ないが、このまま眺めていても仕方がない。ななは戸の端を小突いた。
 びくりとペシフィロの動きが止まる。ななはもう一度ノックをして立ち上がる。今度は大きく戸を開いて、ペシフィロに自分の姿が見えるようにした。
 振り向いたペシフィロは、途端に笑顔になる。
「いらっしゃい。久しぶりですね」
 ななは深く肯いた。肯定と、服従の合図を兼ねたのだ。あまり低くひれ伏すとペシフィロは嫌がるので、この程度で折り合いをつけるようにしている。
 ペシフィロは雑巾をバケツに放り、いそいそと台所へと向かった。ななはカリアラたちから預かった荷物や書類、手紙などを机に置くと、ペシフィロの後を追う。わざわざ茶を出してもてなさなくていいと言っても、ペシフィロは聞かないのだ。進んで手伝いをしなければ、ななとしては落ちつけない。
「どうですか、魔力塔の方は。問題なく進んでいますか?」
 ななは肯く。多少の諍いや停滞はあったが、今ではすべて解決していた。
「そうですか。よかった、順調なんですね」
 もう一度肯く。
「ピィスはどうですか、忙しすぎてはいませんか?」
 答えに困る質問だ。沈黙を受けて、ペシフィロは問いを変える。
「あの子たちは、楽しそうにやっています?」
 肯いた。ペシフィロは笑う。
「よかった。あまり無理をしないよう、気をつけてあげてくださいね」
 肯く。茶が入り終わり、ななが持参した土産の菓子も皿に載る。
「じゃあ、とりあえずお茶でも飲みながら話しましょうか。遠くから、疲れたでしょう」
 前半は肯定で後半は否定だったが、ペシフィロはななの返事を待たず居間に向かった。


 アーレルから、魔力塔のあるノリスまでは、一日と半かかる。
 だがそれはあくまでも普通の行程ではの話で、乗合馬車を避け、街道を外れ、まともな道などない山の中を突き抜ければ、一昼夜でたどりつく。ななが走ればもっと早い。使影は伝令に向いているのだ。
 そのため、ななは、忙しくて魔力塔を離れられないピィスの代わりに、月に一度はペシフィロの様子を見にやってくる。ありとあらゆる近道と足を使って、全速力で。
 そして預かりものを届けると、一人で暮らしているペシフィロが病気にかかっていないか、疲れや心配事に弱っていないか、ちゃんと食事を取っているかをしっかりと確認するのだ。半分はピィスの要望だが、残りはなな自身の意志でもあった。大きな病を乗り越えてきたペシフィロの体は、まるでつぎはぎをするようにして、かろうじて健康を保っているのだ。いつ、何があるか、いまだ警戒を怠ってはならない。
 今のところ問題があったことはなく、一通りの確認を終えると、のんびりと互いの近況を語り合うのが恒例となっていた。とはいえ、喋るのはほとんどがペシフィロだ。あとは、ペシフィロによる要領のいい質問と、ななの首の動きだけで会話が成り立っている。
 二十年近くの付き合いだ。今さらあれよこれよと説明をしなくとも意志の疎通はできる。
 他人から見れば驚くような関係かもしれないが、彼らにとってはこれが普通で、別に特別なことではないと、お互いに思っていた。


 ジリジリと耳にうるさい音が聞こえた。ななは、何気なく魔力塔の一室を覗く。そこにはピィスにカリアラ、サフィギシルにシラと首脳陣が揃っていた。ななは上の階へと向かっていた足を止め、戸を叩く。わずかな音にカリアラだけが気づき、ちらりと視線で入室を許可した。
 皆が集まっている壁際に行くと、ピィスが振り向く。
「あ、おかえり。ちょっと待って、報告はこれが終わってからね」
「かしこまりました」
「あれ、なな? なんか久しぶりだな」
 ようやく気づいたサフィギシルが、きょとんとしている。
 ななは一ヶ月近くの出張で、遠方の様子を調査してきたのだ。計画に必要な計測のため、普段からあまり魔力塔にいることは少ない。いたとしても、サフィギシルや、特にシラの前に姿を現すことはなかった。ろくな目に遭わないのだ。今でもななはシラを警戒している。
 ななは、壁に不可解な物体が備えつけられているのに気づいた。
 小さな円盤と、網状のもの、そして手のひらに収まる程度のラッパ状のものが、機械らしきものの表面にくくりつけられている。金属のそれはすべて目にもまばゆい金色で、まだ作られたばかりなのだとわかった。金メッキは魔力を浮かせて吹き飛ばすためだろう。これもまた、魔力塔の面々が作った、新しい作品なのだ。
 それはなにをするものですかと視線で問う。答えたのはカリアラだった。
「電話だ。知ってるか、電話」
 はい、と気配だけで答えた。魔力を必要としない国ほど、機械文明が進みつつある。アーレルでは魔力波が邪魔をして通信ができないが、他の地域では着々と電話による通信が取り入れられていた。
「魔力波に邪魔されない、逆に魔力を使って通信する電話ができたんだ」
「俺が作ったんだけどな」
 サフィギシルが電話の調整をしながら口を挟む。カリアラが無視して続けた。
「塔の中に蓄えた魔力も、そろそろ使わないといけないからな。実験として、とりあえずお父さんの家と繋いだんだ」
「この間アーレルに戻ってさ、親父の家に機械の片割れを設置したんだ。で、今日が初の試運転」
 初めて聞く話だった。そういえば、ペシフィロの家にもしばらく行っていない。
「今ごろ親父も向こうで待機してるはずだよ。そろそろ始めようか」
 ピィスがそう言うと、四人は揃って電話機に向き直った。サフィギシルが不思議な動作を始める。ななにはよくわからないが、それがペシフィロの家の電話とこことを繋げる方法らしい。ぐるぐると細いレバーを回しては、小さなラッパ型のものを耳にあてている。
「あの耳にあててるのが受話器。機械についてる網のところが送信機」
 と、カリアラに説明されてもよくわからない。ななは電話を使ったことがないのだ。
 ぷつ、と糸のように音が切れ、繋がる気配がして、サフィギシルの肩が跳ねた。
「あ、ペシフさん? 聞こえる?」
 あ、あ、あ、と発声練習のように続ける。すると、あるところで笑顔になった。
「うん、こっちも聞こえる。成功だ」
 見ている者がわっとわいた。ななだけが取り残されている。ピィスが、サフィギシルから受話器を奪うようにして交代する。
「おーい、聞こえますかー? ……うん、うん。うわ、すごいなこれ……」
「な、凄いだろ。たまには俺も役に立つものを作るんだよ」
「たまには、って自分で言ってどうするんですか……」
 呆れたように言うシラの頬も、興奮に赤くなっている。皆それぞれに盛り上がり、次々と交代しては電話機に話しかけていた。
「今まで何を伝えるのにも時間がかかったけど、これならすぐに連絡できますね」
「緊急事態があったとき、伝令だといちいち時間がかかるからな。ななも、これからは電話で連絡すればすぐだろ。わざわざアーレルまで走らなくて済むんだ」
 サフィギシルがななを振り向くが、ななはどう答えていいのかわからなかった。
 何をするでもなく立っていたななに、ピィスが手招きをする。
「ななも、ほら」
 ほらと言われても、どうしていいかわからない。ななは取りあえず電話機の前に立った。金色の、丸い輪が網を囲っている。手渡されたラッパ型の受話器とやらは、皆の熱で温まっていた。ぬるい金属のそれを、見よう見まねで耳にあててみる。
『だけど、本当によく聞こえますね。そこにいるみたいで』
 びくりと、思わず取り落としそうになった。カリアラが笑っている。だが腹を立てる余裕もない。
 これはなんだ。これはなんだ。小さなラッパからはペシフィロの声がする。まるで、すぐそこにいるかのように。
 電話機が何かは知っていた。だがあれは、雑音と変調にまみれた、不器用な機械だったはずだ。相手の言葉を聞き取るのは難しく、そのため暗号じみた言葉を大声で張り上げて、ようやく届くもだったのだ。そのため、電話の使用には、代書人のように代話人を必要とするのが常だった。
 それなのにこの機械からは、信じられないほど「普通」の声が聞こえる。相手は遠いアーレルにいるはずなのに、壁一枚の隔たりすら感じない。
 一瞬、冗談を言われているのかと考えた。性格の悪い騙しを仕掛けられているのかと。
 だが電話機のある壁の向こうは、地上十五階の高さの空中で、ペシフィロがふわふわと浮いて向こうから話しかけているはずがない。そもそも、皆の顔色と声の興奮ぶりが、本物であることを教えてくれた。
『あれ、通信が切れてしまいましたか? おーい、聞こえますかー』
 呼びかけられてハッとする。電話の前に立ってから、まだ一度も喋っていない。この、送信機とやらに向かって何か言わなければ、あちらには何も届かないのだ。ペシフィロは通信が終わったものと思うだろう。
 ピィスが「ほら」と目でうながしている。ななは口を開こうとした。
 そして気づく。何を言えばいいのかわからないことに。
『あ、あ、あー。おーい、おーい。聞こえてますか?』
 肯く。だがそれでは相手に伝わらないのだ。互いの姿は見えないのだから。
 ななはぎこちなく首を固めた。しぐさで示しても駄目だ、喋らなければ。
 だが何と言えばいいのだろう。目の前にあるのは機械だ。ペシフィロではない。それなのに、ペシフィロに話しかけるように、何事かを言わなければならない。
 ななは愕然として固まるしかない。
 これまで、ペシフィロとはいくつもの会話をしてきた。だがそれはペシフィロの有用な質問と、ななのしぐさで成り立っていたのだ。言葉にすることなどほとんどない。
 ななはサフィギシルの台詞を思い出す。
 これからは、アーレルに行かずとも、この電話で連絡をすればいいのだと言っていた。
 確かにそうだ。山を駆け抜けたところで、アーレルまではどんなに早くしても一晩かかる。無駄な時間と労力を使うよりも、電話で話した方が便利だ。
 ななは、ますます固くなってしまった。

 これまで、ペシフィロに直接会ってしてきたこと。
 健康の確認や食生活の調査、心配な物事を抱えていないか、睡眠が足りているかどうか。近ごろ魔力塔で何があったか、これからどうしていく予定なのか。それらの雑多な物事を、これからは、すべて、言葉で伝えなければならないのだ。

 金色に輝く送信機を前にななは固まる。耳にした受話器からは沈黙が流れてくる。脂汗が滲む。何か喋らなければ。だが何を?
 口を、相手の名前の一文字目の形に開いた。だが声にならない。そうだ、他の者の前では彼の名前すら口にしたことがなかったのだ。いつだって視線と暗黙の了解で終わらせていた。今さらどうして声に出せる?
『……なな?』
 あまりにも近い声に、受話器を取り落としそうになる。
 一体何が伝わったのだろう、ペシフィロは小さく笑った。
『ああ、やっぱり。あなたに代わったんですね』
 その笑い声の微細な息まで鼓膜を震わす。どうしてこの機械は、すべての会話を耳元で囁かせるのだ。ななは気がついてしまった。自分の声も、同じだけ近く相手の耳に響くことに。考えただけで青ざめる。
『その。えーと……元気ですか?』
 耳元を通り越して、聴覚の管の中でペシフィロが困っているような気がする。汗のせいで、受話器が頬骨の近くをすべる。
 石のごとく固まったななの体をどけて、カリアラが送信機の前に立った。
「うん。ななは元気だぞ。今は緊張してるけどな」
 喋りながら、ななを見ずに手だけを差し出す。ほとんど反射的に、ななはカリアラに受話器を渡していた。すんなりと受け取ってカリアラは自分の耳にあてる。
「うん、そうだ。大丈夫、ちゃんとしておく。お父さんもな、うたた寝したらだめだぞ。おれも気をつける。うん、うん。ピィスと代わるな」
「あ、あたしあたし。うん、そう。だからね……」
 二人とも、まるでななが初めからいなかったかのようにふるまっている。
 ななにとって、それが一番ありがたいことを知っているのだ。
 感謝する余裕もなくななは電話の傍を離れた。盛り上がる会話にひきつけられて、サフィギシルやシラたちもななのことなど見ていない。ななは不規則に荒ぐ息を押し殺し、そっと部屋の外に出た。


 カリアラはそれを横目で見ている。普段なら睨み返してくる使影は、今日はそんな気力もなく倒れるように去ってしまった。つまらない。遊びがいがないなんて、何のための使影だろう。
 カリアラは一通りの会話を終えて、通信を切る。
 そして、満足げなサフィギシルに向かって、思いきり顔をしかめてみせた。
「……サフィは駄目だなぁ」
「は!?」
 サフィギシルは予想外の反応に驚くしかない。褒め称えられる以外の展開を想像していなかったのだろう。
 ため息を隠さないカリアラの隣で、ピィスが同じ色で肯く。
「うん。ほんっと駄目なやつだよ」
「なんだよお前まで。なんで同じ表情なんだよ!」
 カリアラとピィスだけが状況を理解している。遠巻きに見るシラもなんとなく察しているが、サフィギシルだけは、まったくわかっていないらしい。不可解に電話を指さす。
「ちゃんと動いたじゃねーか。え、何、なんで俺が悪いみたいになってんの?」
「……なぁ?」「なぁ。まったく」
「二人だけで仲良く分かり合うのやめろよ! おいっ」
 があがあと騒ぐサフィギシルを無視してカリアラは電話を見る。
 金色に輝く美しい機械。小さな見た目からは想像もできないほど遠くと、一瞬にして言葉を交わせてしまう素晴らしい装置だ。サフィギシルは褒められても良かった。カリアラとピィスの使影に対して、思いやりさえ持っていれば。
「……サフィは駄目だなぁ」
 二人して声を合わせて、やれやれと首を振った。


 それぞれが解散したあと、誰もいなくなった電話の前で、ななはうろうろと回っている。電話機には緊急の時のためにと、わかりやすい使い方が添えられた。穴が開くほど熟読して、知識の上では、ななはもう電話を使えるようになっている。簡単だ。ペシフィロの家としか繋がっていないのだから、難しい番号で選択をする必要はない。交換手との交渉もない。ただ、受話器をとって、いくつかの手順を踏むだけだ。
 だがななは電話機に触れることすらできなかった。あの沈黙を想像しただけで、嫌な汗が戻ってくる。心臓が固まって、喉が渇き、そのまま石になりそうだ。
 それなのにななは電話機のある部屋から離れられなかった。壁に据えつけられたそれの前で、意味もなく歩き続け、輪のごとく周り、巡り、そしてまた電話を見ては石のような気分になる。
 何か言わなくてはいけない、という脅迫的な考えが頭の中を支配している。
 先ほどの非礼を詫びなければ。ペシフィロに何か言わなければ。だが電話のことを考えると、指一つまともに動かせなくなる。どうすればいい。どうすれば。
「あ、ここにいたの」
 突然の声に驚く。振り向くとピィスがいた。彼女が部屋に入ったことすら気づかないほど、追い詰められていたようだ。
「ほら、これ」
 ピィスは手にしていた袋を開けて、ななに見せた。
 中には、まだ湯気の立つパンがいくつも詰まっている。
「珍しく上手く焼けたから、みんなに配ってるところ。だけどお腹いっぱいなやつばっかりでさー、誰も食べてくれないの。今回は本当に、珍しくちゃんと焼けたのに!」
「なな、いるかー?」
 言い終わらないうちにカリアラが入ってきた。彼もまた袋を持っていて、ピィスとななに向けて見せる。
「庭の柿取ってたらな、いっぱい取りすぎてあまったんだ。なんかな、誰ももらってくれない」
 だからさ、これ、と二人の声が揃う。
「親父のところに」「お父さんのところに」
 別れた言葉は次でぴたりと合流した。
「持っていって欲しいなー」
 ね。とピィスが笑う。な。とカリアラも笑う。
 ななは、一瞬の呆然の後に紅潮し、さざめきのように震えて頭を下げた。
「……かしこまりました」
 カリアラだけ殴りたいと思いながらも諦めて、二人からそれぞれに袋を受け取る。
 大部分がこげてしまった固いパンと、まだ青さを残す渋い柿。
 大量のそれをどう説明するべきだろう。ペシフィロなら、見ただけでわかってくれるだろうか。
「行ってこい」「行ってらっしゃい」
 口々に送る二人にもう一度深く頭を下げて、ななは部屋を走り去る。
 ここからの道は長く、険しい。電話などとは比べ物にもならない。
 だがそれでも、語るべき言葉を持たない者には。

「……サフィは駄目だなぁ」「ねぇ」
 残されたカリアラとピィスは、笑いながら手をはたく。
 そして、遠ざかる、ななには珍しい足音を聞きながら、ゆっくりと手を繋いだ。

[おわり]

at 00:28, 古戸マチコ(こと・まちこ), 人なる・過去見・ハヴリア

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